宅地・貸家建付地の相続税評価
相続財産のなかで、自宅の敷地・賃貸アパートの土地と建物・他人に貸している土地などの 不動産 は、ほとんどの相続で大きな割合を占めます。これらは市場で売買される金額そのものではなく、相続税法および 財産評価基本通達 に基づくルールで「相続税評価額」を計算します。
ポイントは、土地の 利用状況 によって評価額が変わるという考え方です。自分で使っている土地よりも、他人に貸している土地のほうが「自由に処分できない」分だけ評価額が下がります。この章では、宅地と貸家の評価式を、自用地を出発点に 貸宅地・借地権・貸家建付地・貸家 の順で整理します。FP3級では、計算式そのものと借地権割合・借家権割合(30%) の使い方が頻出論点です。
評価のスタート地点 ── 自用地
Section titled “評価のスタート地点 ── 自用地”まず基準となるのが 自用地(じようち) です。自用地とは、所有者が自分で使っている宅地のこと。たとえば、自分の家が建っている敷地、自分で営む店舗の敷地などが該当します。
自用地の評価方法には、地域に応じて2つがあります。
| 評価方法 | 適用地域 | 計算式 |
|---|---|---|
| 路線価方式 | 市街地的な形態を形成する地域(路線価が定められている地域) | 路線価 × 地積(× 各種補正率) |
| 倍率方式 | 路線価が定められていない地域 | 固定資産税評価額 × 倍率 |
路線価は、国税庁が毎年7月初旬に公表する「路線価図」に、道路ごとに1㎡あたり千円単位で示されています。たとえば「300D」と表示されている道路に面した土地は、1㎡あたり30万円が路線価です。「D」の部分は 借地権割合 を表すアルファベットで、後述します。
試験で出るポイント
自用地の評価式は 「路線価 × 地積」 が基本。路線価方式と倍率方式の使い分けは「路線価が定められているかどうか」で判定する点を押さえましょう。
借地権割合 ── 路線価図のA〜Gで30〜90%
Section titled “借地権割合 ── 路線価図のA〜Gで30〜90%”土地の上に他人の建物が建っている場合、土地そのものを所有していても、所有者は自由に明け渡しを求められません。借りている側(借地人)には 借地権 という強い権利があり、その権利の強さは地域によって異なります。
借地権の強さを示すのが 借地権割合 で、路線価図ではA〜Gのアルファベットで示されます。
| 記号 | A | B | C | D | E | F | G |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 借地権割合 | 90% | 80% | 70% | 60% | 50% | 40% | 30% |
商業地や都心部ほど借地権割合は高く(A・B)、郊外の住宅地では低く(E・F・G)なります。たとえば「300D」とあれば、路線価30万円・借地権割合60%の地域、ということです。
貸宅地と借地権 ── 自用地を「土地と権利」に分ける
Section titled “貸宅地と借地権 ── 自用地を「土地と権利」に分ける”自分の土地を他人に貸して、その上に他人が建物を建てている場合、所有者から見たその土地を 貸宅地(かしたくち) と呼びます。一方、借りている側から見れば、土地を使う権利が 借地権 です。
両者は同じ土地を「貸す側」と「借りる側」に分けて評価したものなので、合計すると自用地評価額と一致します。
| 評価対象 | 計算式 | 意味 |
|---|---|---|
| 自用地評価額 | 路線価 × 地積 | 何もない更地として自由に使える価値 |
| 貸宅地 | 自用地評価額 ×(1 − 借地権割合) | 借地権の負担がついた地主の権利 |
| 借地権 | 自用地評価額 × 借地権割合 | 借地人が持つ「使う権利」 |
たとえば自用地評価額が1億円、借地権割合60%(D地域)の土地を他人に貸している場合は、
- 貸宅地 = 1億円 ×(1 − 0.6)= 4,000万円
- 借地権 = 1億円 × 0.6 = 6,000万円
となります。土地そのものの価値は1億円のままですが、「貸している側の地主」と「借りている側の借地人」で6:4に分かれているわけです。
貸家建付地 ── 自分の土地に自分のアパートを建てて他人に貸す
Section titled “貸家建付地 ── 自分の土地に自分のアパートを建てて他人に貸す”土地の所有者が、その土地の上に 自分でアパートやマンションを建てて他人に貸している 場合、その土地を 貸家建付地(かしやたてつけち) と呼びます。賃貸アパートが建っている地主の土地、と覚えるとイメージしやすいでしょう。
貸家建付地の評価額は次の式で求めます。
貸家建付地の評価額 = 自用地評価額 ×(1 − 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
ここで使われる3つの割合の意味は次のとおりです。
| 用語 | 意味 | 数値 |
|---|---|---|
| 借地権割合 | その地域の借地権の強さ | 30〜90%(A〜G) |
| 借家権割合 | 建物を借りている人の権利の強さ | 全国一律30% |
| 賃貸割合 | 床面積のうち実際に貸している割合 | 0〜100%(空室は除く) |
貸家建付地が貸宅地よりも有利(評価減が小さく見える)に評価されるのは、地主が借地人に土地を貸しているわけではなく、自分の建物を貸している にすぎないからです。土地に対する制約は借地よりも緩いため、減額幅は「借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合」と、3つの数字を掛け合わせた小さな減額 になります。
自用地評価額1億円、借地権割合60%、借家権割合30%(一律)、賃貸割合100%(満室)の貸家建付地の評価額は、
- 1億円 ×(1 − 0.6 × 0.3 × 1.0)
- = 1億円 ×(1 − 0.18)
- = 1億円 × 0.82
- = 8,200万円
満室でも自用地より18%評価が下がります。空室があり賃貸割合が80%なら、
- 1億円 ×(1 − 0.6 × 0.3 × 0.8)= 1億円 ×(1 − 0.144)= 8,560万円
と、減額幅が小さくなります。空室が多いほど評価減が小さくなる点に注意しましょう。
試験で出るポイント
貸家建付地の評価式は 「自用地 ×(1 − 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)」。借家権割合は全国一律 30%、借地権割合は地域別(A〜Gで30〜90%)です。3つの割合をすべて掛け合わせてから1から引く順序を間違えないようにしましょう。

貸家の評価 ── 建物固定資産税評価額から借家権を控除
Section titled “貸家の評価 ── 建物固定資産税評価額から借家権を控除”土地だけでなく 建物 にも独自の評価ルールがあります。所有者が自分で使っている建物(自用家屋)は、固定資産税評価額がそのまま相続税評価額になります。
一方、その建物を 他人に貸している場合(貸家) は、借りている人(借家人)に 借家権 が発生し、所有者は自由に明け渡しを求められません。この負担分を控除して評価します。
貸家の評価額 = 建物の固定資産税評価額 ×(1 − 借家権割合 × 賃貸割合)
ここで重要なのは、貸家の評価式には 借地権割合は出てこない ことです。土地の評価ではなく建物の評価なので、借地権は無関係になります。借家権割合は土地と同じく 全国一律30% を使います。
建物の固定資産税評価額が3,000万円、満室(賃貸割合100%)の貸家は、
- 3,000万円 ×(1 − 0.3 × 1.0)
- = 3,000万円 × 0.7
- = 2,100万円
賃貸割合80%(一部空室)なら、
- 3,000万円 ×(1 − 0.3 × 0.8)= 3,000万円 ×(1 − 0.24)= 2,280万円
試験で出るポイント
貸家の評価式は 「固定資産税評価額 ×(1 − 借家権割合 × 賃貸割合)」。借地権割合は掛けない点が、貸家建付地と取り違えやすい引っかけポイントです。「土地は借地権、建物は借家権」と整理しましょう。
4つの評価式まとめ
Section titled “4つの評価式まとめ”ここまでに登場した宅地・建物の評価式を一覧で整理します。FP3級ではこの表をそのまま暗記するつもりで臨みましょう。
| 利用区分 | 評価対象 | 計算式 |
|---|---|---|
| 自用地 | 自分の宅地 | 路線価 × 地積(または固定資産税評価額 × 倍率) |
| 貸宅地 | 他人に貸している土地(借地権あり) | 自用地評価額 ×(1 − 借地権割合) |
| 借地権 | 借りた土地を使う権利 | 自用地評価額 × 借地権割合 |
| 貸家建付地 | 自分の貸家が建つ土地 | 自用地評価額 ×(1 − 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合) |
| 自用家屋 | 自分で使う建物 | 固定資産税評価額 × 1.0 |
| 貸家 | 他人に貸している建物 | 固定資産税評価額 ×(1 − 借家権割合 × 賃貸割合) |
評価の基本は「自分で使う=減額なし/他人に貸す=制約があるので減額」という考え方です。借地権割合は地域差があり、借家権割合は 全国一律30% という違いも押さえておきましょう。
賃貸割合の落とし穴
Section titled “賃貸割合の落とし穴”最後に、賃貸割合について補足します。賃貸割合は、賃貸物件の総床面積に対する 実際に賃貸されている部分の床面積の割合 で計算します。
賃貸割合 = 賃貸されている部分の床面積 ÷ 各独立部分の床面積の合計
ポイントは、空室は賃貸割合に含めない ことです。空室が多いほど賃貸割合は下がり、貸家建付地・貸家ともに評価減が小さくなります。つまり「満室経営のほうが相続税評価上は有利」になるわけです。
ただし、一時的な空室(次の入居者を募集中で短期間の空室)は、満室同様に賃貸中として扱うことが認められています。
試験で出るポイント
借家権割合は 全国一律30%、借地権割合は A〜Gで30〜90%(地域別) という違いは頻出。また、貸家建付地・貸家とも評価額の減額幅は 「借家権割合 × 賃貸割合」 に左右されるため、空室が多いと減額が小さくなる(評価額が高くなる)点も覚えておきましょう。
自用地評価額が1億円、借地権割合70%の土地を他人に貸し、その土地の上に他人が建物を建てて使用している。この貸宅地の相続税評価額として、最も適切なものはどれか。
① 3,000万円 ② 7,000万円 ③ 1億円
解答
正解:①
貸宅地の評価額は 自用地評価額 ×(1 − 借地権割合) で求める。1億円 ×(1 − 0.7)= 3,000万円。なお、借地権の評価額は1億円 × 0.7 = 7,000万円となり、両者の合計は自用地評価額1億円に一致する。
借家権割合は地域によって異なり、路線価図のアルファベット記号A〜Gで30%〜90%の範囲で示される。次の記述の正誤を判定せよ。
解答
正解:×
A〜Gで30〜90%が示されるのは 借地権割合 であり、土地の評価で用いる。借家権割合は全国一律30% で、建物(貸家)や貸家建付地の評価で用いる。両者を取り違えやすいので注意。
自用地評価額が8,000万円、借地権割合60%の土地に、所有者自身が賃貸アパートを建てて他人に貸している(賃貸割合100%)。借家権割合は全国一律30%として、この貸家建付地の相続税評価額として最も適切なものはどれか。
① 5,440万円 ② 6,560万円 ③ 8,000万円
解答
正解:②
貸家建付地の評価額は 自用地評価額 ×(1 − 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合) で求める。8,000万円 ×(1 − 0.6 × 0.3 × 1.0)= 8,000万円 ×(1 − 0.18)= 8,000万円 × 0.82 = 6,560万円。
固定資産税評価額が4,000万円の建物を他人に貸している。賃貸割合は100%として、この貸家の相続税評価額は、借家権割合を全国一律30%とすると2,800万円となる。次の記述の正誤を判定せよ。
解答
正解:○
貸家の評価額は 固定資産税評価額 ×(1 − 借家権割合 × 賃貸割合) で求める。4,000万円 ×(1 − 0.3 × 1.0)= 4,000万円 × 0.7 = 2,800万円。なお、貸家の評価式に借地権割合は含まれない点に注意。
貸家建付地の相続税評価額の計算において、賃貸物件の空室部分は賃貸割合に含めない。次の記述の正誤を判定せよ。
解答
正解:○
賃貸割合は 「賃貸されている部分の床面積 ÷ 各独立部分の床面積の合計」 で算定し、原則として空室部分は分子に含めない。空室が多いほど賃貸割合は下がり、減額幅も小さくなるため、相続税評価上は満室経営のほうが有利となる。なお、次の入居者募集中の一時的な空室は、満室同様に取り扱える。
借地権割合60%の地域にある自用地評価額1億円の土地について、所有者がその土地に賃貸マンションを建てて他人に貸している(賃貸割合80%、借家権割合30%)。この貸家建付地の相続税評価額として最も適切なものはどれか。
① 8,560万円 ② 8,200万円 ③ 7,840万円
解答
正解:①
貸家建付地の評価額 = 自用地評価額 ×(1 − 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)。1億円 ×(1 − 0.6 × 0.3 × 0.8)= 1億円 ×(1 − 0.144)= 1億円 × 0.856 = 8,560万円。空室があるため、満室時(8,200万円)より評価額は高くなる。