事業所得・不動産所得
事業を営んでいる人や、アパート・マンションなどの不動産を貸し付けている人の所得は、それぞれ 事業所得 または 不動産所得 に区分されます。サラリーマンの給与所得と違って、収入金額がそのまま所得になるわけではなく、必要経費 を差し引いて計算する点が大きな特徴です。さらに、建物などは購入年に全額を経費にできず、毎年少しずつ経費化する 減価償却 という考え方を使います。本章では、これら2つの所得に共通する計算ルールと、両者を区別する重要な基準である 5棟10室基準 を整理します。
事業所得 ── 商売・農業・自営業の所得
Section titled “事業所得 ── 商売・農業・自営業の所得”事業所得は、所得税法第27条 に基づく所得で、自分で営む事業から生じた利益 を指します。具体的には次のような業種が該当します。
- 商業・工業・サービス業(小売店、飲食店、美容院など)
- 農業・漁業
- 医師・弁護士・税理士などの自由業
- 製造業・建設業
事業所得は 総合課税 の対象で、給与所得などと合算して超過累進税率で課税されます。
事業所得の計算式
Section titled “事業所得の計算式”事業所得の金額 = 総収入金額 − 必要経費
必要経費とは、その収入を得るために直接要した費用と、その年の販売費・一般管理費・その他業務上の費用です。具体的には、商品の仕入代金、店舗の家賃、従業員の給料、水道光熱費、減価償却費などが含まれます。プライベートの支出は経費になりませんし、家事関連費(自宅兼事務所の家賃など)は事業使用部分を合理的に按分する必要があります。
売上原価の計算
Section titled “売上原価の計算”商品を仕入れて販売する小売業や卸売業では、必要経費の代表例である 売上原価 を次の式で計算します。
売上原価 = 期首商品棚卸高 + 当期仕入高 − 期末商品棚卸高
考え方はシンプルです。「期首にあった在庫」と「今年仕入れた分」を足したのが今年使える商品の総額。そこから「期末に売れ残った在庫」を引けば、実際に売れた分(=今年の原価)になります。
数値例で確認しましょう。期首棚卸高 100万円、当期仕入高 800万円、期末棚卸高 150万円のケースでは、
売上原価 = 100万円 + 800万円 − 150万円 = 750万円
となります。
試験で出るポイント
売上原価の式で「期末+仕入−期首」と覚えるのは 誤り です。正しくは「期首+仕入−期末」。「最初にあった在庫+仕入れた分−最後に残った在庫」と日本語で意味を押さえれば取り違えません。
不動産所得 ── 土地・建物の貸付による所得
Section titled “不動産所得 ── 土地・建物の貸付による所得”不動産所得は、所得税法第26条 に基づく所得で、土地・建物などの 不動産の貸付け から生じる所得です。賃貸アパート・マンション、駐車場、土地の地代などが代表例です。これも総合課税の対象となります。
不動産所得の計算式
Section titled “不動産所得の計算式”不動産所得の金額 = 総収入金額 − 必要経費
総収入金額に含まれるのは、家賃・地代の収入だけではありません。敷金・保証金のうち返還を要しない部分(礼金や、退去時に償却する部分)、更新料、共益費 なども収入に含まれます。一方、預かったまま将来返還する敷金は収入になりません。
必要経費としては、固定資産税、損害保険料、修繕費、減価償却費、借入金の 建物部分の利子 などが認められます。
「事業所得ではなく不動産所得」と判定される
Section titled “「事業所得ではなく不動産所得」と判定される”ここで重要なのが、不動産の貸付けはどんなに規模が大きくても、原則として「不動産所得」となる ことです。10棟ものアパートを所有して家賃収入で生活している人でも、所得区分は 事業所得ではなく不動産所得 です。これが他の所得との大きな違いです。
ただし、貸付けの規模が一定以上 であれば「事業的規模」と判定され、青色申告特別控除の上限が65万円になるなど、税務上の扱いが事業所得に近づきます(後述する青色申告の章で詳しく扱います)。区分自体はあくまで不動産所得のままで動かない点に注意しましょう。
5棟10室基準 ── 事業的規模の判定
Section titled “5棟10室基準 ── 事業的規模の判定”不動産の貸付けが「事業的規模」かどうかを判定する明確な基準として、5棟10室基準 が用いられています。
| 物件の種類 | 事業的規模となる目安 |
|---|---|
| 戸建て住宅 | 5棟 以上 |
| アパート・マンションの貸間・貸家 | 10室 以上 |
戸建てとアパートが混在する場合は、戸建て1棟をアパート2室に換算するなどして合算で判定します。たとえば戸建て3棟+アパート4室なら「3×2+4=10室相当」となり事業的規模に該当します。
事業的規模になると何が変わるか
Section titled “事業的規模になると何が変わるか”不動産所得が事業的規模と判定されると、青色申告のメリットが大きく広がります。
| 項目 | 事業的規模 でない 場合 | 事業的規模 である 場合 |
|---|---|---|
| 青色申告特別控除 | 最高 10万円 | 最高 55万円(電子申告等で65万円) |
| 青色事業専従者給与 | 必要経費にできない | 必要経費にできる |
| 賃貸用固定資産の取壊し損失 | 所得限度で経費算入 | 全額 経費算入可 |
| 回収不能家賃の貸倒れ処理 | その年の収入から除外 | 必要経費に算入 |
試験で出るポイント
5棟10室基準を満たして「事業的規模」になっても、所得区分は 事業所得ではなく不動産所得のまま です。「事業的規模になれば事業所得になる」という選択肢は誤りです。
減価償却 ── 高額な資産を毎年少しずつ経費化する
Section titled “減価償却 ── 高額な資産を毎年少しずつ経費化する”事業所得・不動産所得を計算するうえで欠かせないのが 減価償却 という考え方です。建物・機械・車両のように長期間使う高額な資産は、購入した年に全額を経費にしてしまうと利益計算が歪みます。そこで、資産の 使用可能期間(耐用年数) にわたって少しずつ経費化していくしくみが減価償却です。毎年計上する経費が 減価償却費 です。
定額法と定率法
Section titled “定額法と定率法”減価償却の方法には2種類あります。
| 方法 | 計算方法 | 特徴 |
|---|---|---|
| 定額法 | 取得価額 × 定額法償却率(毎年同額) | 毎年の償却費が一定。計算しやすい |
| 定率法 | 未償却残高 × 定率法償却率(だんだん減る) | 早期に多く償却。資産の収益貢献度に近い |
資産ごとに使える償却方法
Section titled “資産ごとに使える償却方法”ここがFP3級でよく問われるポイントです。資産の種類と取得時期によって、使える償却方法が制限されています。
| 資産の種類 | 取得時期 | 使える償却方法 |
|---|---|---|
| 建物 | 1998年4月1日以後 | 定額法のみ |
| 建物附属設備・構築物 | 2016年4月1日以後 | 定額法のみ |
| 機械装置・車両運搬具・器具備品 | いつでも | 定額法 または 定率法(届出で選択) |
| 特許権・商標権・ソフトウェア等 | いつでも | 定額法のみ |
個人事業主の法定償却方法は定額法 です。届出をしなければ自動的に定額法が適用されます。一方、法人の法定償却方法は定率法(建物等を除く)と異なるため、混同しないようにしましょう。
減価償却の対象にならない資産
Section titled “減価償却の対象にならない資産”すべての資産が減価償却の対象になるわけではありません。時の経過によって価値が減らない資産 は 非減価償却資産 として、減価償却の対象外です。
- 土地(時の経過で価値が減らない)
- 借地権
- 書画・骨董・美術品(一定の価値を持つもの)
- 電話加入権
試験で出るポイント
「土地は減価償却の対象になる」は 誤り です。土地は時の経過で劣化しないため、何十年経っても帳簿価額(取得価額)のまま動きません。建物だけが減価償却され、土地は固定したまま、と覚えましょう。
減価償却費の計算例(定額法)
Section titled “減価償却費の計算例(定額法)”たとえば取得価額 1,000万円・耐用年数 50年(鉄筋コンクリート造の住宅用建物)のアパートの場合、定額法償却率は0.020です。
1年あたりの減価償却費 = 1,000万円 × 0.020 = 20万円
毎年20万円ずつが必要経費に計上され、50年で帳簿上の価値がほぼゼロまで減少します(最終的に1円の備忘価額を残します)。
事業所得・不動産所得の比較
Section titled “事業所得・不動産所得の比較”最後に、両所得の主要論点を一覧で整理します。
| 項目 | 事業所得 | 不動産所得 |
|---|---|---|
| 根拠条文 | 所得税法27条 | 所得税法26条 |
| 対象 | 商業・工業・農漁業・自由業など自ら営む事業 | 不動産の貸付け(家賃・地代・更新料) |
| 計算式 | 総収入金額 − 必要経費 | 総収入金額 − 必要経費 |
| 課税方式 | 総合課税 | 総合課税 |
| 損益通算 | 可能(損失を他の所得と通算) | 可能(土地取得借入金利子分を除く) |
| 規模による所得区分の変化 | ─ | 規模が大きくても 不動産所得のまま |
| 事業的規模の判定 | ─ | 5棟10室基準 |
| 青色申告特別控除 | 最高55万円(電子申告等で65万円) | 事業的規模なら最高55万円(同65万円)/規模未満は10万円 |
試験で出るポイント
不動産所得には「土地取得のための借入金利子は損益通算の対象外」という重要ルールがあります(建物取得分の利子は通算可)。この論点は損益通算の章で扱われますが、不動産所得とセットで覚えておきましょう。
商品売買業を営むAさんの当期の損益データは次のとおりであった。期首商品棚卸高 200万円、当期仕入高 1,500万円、期末商品棚卸高 300万円。当期の売上原価の金額として、最も適切なものはどれか。
① 1,400万円 ② 1,500万円 ③ 1,600万円
解答
正解:①
売上原価 = 期首商品棚卸高 + 当期仕入高 − 期末商品棚卸高 で計算する。
200万円 + 1,500万円 − 300万円 = 1,400万円
「最初の在庫+今年仕入れた分−最後に残った在庫」が今年売れた分の原価となる。期首と期末を逆にする誤答が頻出なので注意。
Bさんはアパート12室を所有し賃貸事業を営んでおり、その規模は所得税法上の事業的規模に該当する。Bさんがこのアパート賃貸業から受け取る家賃収入による所得は、事業所得として課税される。次の記述の正誤を判定せよ。
解答
正解:×
不動産の貸付けによる所得は、貸付規模の大小にかかわらず 不動産所得 に区分される。5棟10室基準 を満たして「事業的規模」と判定されると、青色申告特別控除の上限が55万円(電子申告等で65万円)に拡大されるなど税務上の特典が拡大するが、所得区分自体は 不動産所得のまま で動かない点に注意。
事業の用に供している減価償却資産のうち、土地は時の経過によりその価値が減少しないため、減価償却の対象とならない。次の記述の正誤を判定せよ。
解答
正解:○
土地 は時の経過によって価値が減少しないため、所得税法上 非減価償却資産 とされ、減価償却を行わない。借地権、書画・骨董品(一定のもの)、電話加入権なども非減価償却資産に該当する。一方、建物・建物附属設備・機械装置・車両運搬具・器具備品などは減価償却の対象となる。
2024年に取得した賃貸用建物の減価償却について、定額法と定率法のいずれかを選択して償却することができる。次の記述の正誤を判定せよ。
解答
正解:×
1998年4月1日以後に取得した建物 の減価償却方法は 定額法のみ であり、定率法を選択することはできない。建物附属設備・構築物についても、2016年4月1日以後に取得したものは定額法のみとなる。一方、機械装置・車両運搬具・器具備品については定額法・定率法の選択が可能(個人の法定償却方法は定額法)。
個人で不動産の貸付けを行っている場合、その貸付けが事業的規模に該当するか否かの判定について、最も適切なものはどれか。
① 戸建て住宅の貸付けは原則として4棟以上、アパート・マンション等の貸間は原則として8室以上であれば事業的規模となる。 ② 戸建て住宅の貸付けは原則として5棟以上、アパート・マンション等の貸間は原則として10室以上であれば事業的規模となる。 ③ 戸建て住宅の貸付けは原則として6棟以上、アパート・マンション等の貸間は原則として12室以上であれば事業的規模となる。
解答
正解:②
事業的規模の判定基準は 5棟10室基準 と呼ばれ、戸建て住宅であれば 5棟以上、アパート・マンション等の独立した部屋であれば 10室以上 が原則的な目安となる。両者が混在する場合は、戸建て1棟をアパート2室に換算して合算判定する。事業的規模に該当すると、青色申告特別控除(55万円・65万円)や青色事業専従者給与の必要経費算入が可能となる。
アパートを賃貸している個人が、入居者から受け取った敷金のうち、退去時に返還を要しない部分の金額は、その不動産所得の総収入金額に算入される。次の記述の正誤を判定せよ。
解答
正解:○
敷金・保証金のうち、契約により 返還を要しない部分(礼金、退去時に償却する部分)は、その時点で 不動産所得の総収入金額 に算入される。一方、預かったまま将来全額返還する性質の敷金は、預り金として資産負債両建てで管理し、収入には含めない。更新料や共益費も総収入金額に含まれる点と合わせて押さえておこう。